マサ公の将棋実戦次の一手

初心者に将棋の考え方を分かりやすくかみ砕いて解説

【ツインレイ】そこまで告白する?もはや手遅れか?ある中年男性は愛を確信し嫉妬と試練を克服できるのか

んにちは!マサ公です。

 

あるツインレイ男性は告白する。

 

そして「やってしまったのだ。もはや手遅れだ」という思いを繰り返す。

 

ツインレイ女性との波乱の愛の物語を滔々と告白するある中年男性。

 

男性は行き過ぎた恋の衝動を実行し、再三の後悔と再び蘇る思いに振り回される。

 

 

 

人生の半ばをすぎたような中年男性が、二回りも歳が離れている女性に運命的な恋をし惹かれていく。

 

次々と襲ってくる激しい嫉妬の感情と、様々な試練を彼は克服できるのか。

 

はた目には滑稽にすら見える、女性の身振り・態度から両想いを確信していく愚直なまでのプラトニックラブ

 

はたして彼女はツインレイなのか!?

 

二人の恋の行方は?

 

どうぞご覧ください

 

 

 

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転勤

 

私は名前を正 公一という、マルマル商事総務課に勤務する、今年で50歳になるオヤジである。

 

「やあ、おはよう」

 

「おはようごさいます」

 

“キンコーンカンコーン”

 

今日一日の始まりである。

  

「これから朝礼を始めます」

 

若い頃から欲がなく、お金も生活にいるだけあればいいという主義で、この年になってもヒラである。

 

「今日も一日よろしくお願いします」

 

とりえといえば、欲がない分ストレスがなく、天然とよく言われること。

 

それと身体が丈夫なことくらいか。

 

妻子はいない。

 

今まで天然な性格ゆえに子どもっぽく思われたのか、女性に縁がなかった。

 

そしてその日の仕事も気分が乗ってこようかというときに・・・。

 

「正くん」

 

「はっ?」

 

「こちらに来たまえ」

 

「は、はい、課長」

 

そそくさと課長席に向かう。

 

いつも嫌味しか言わない、課長の禿げ頭が光っている。

 

「なんでしょう?」

 

「おめでとう」

 

「はあ?」

 

「異動だ」

 

「へ?」

 

 

 

夕方

 

「ただいま」

 

「あら公一、早かったわね」

 

まだ両親は健在で、3人暮らしだ

 

「飯くってきたから」

 

「そうかい、あいよ」

 

独立しなければ、という気持ちは前々からあったが、生来、必要に迫られないと腰が上がらないところがある。

 

で、結局今に至ったが、典型的な坊ちゃんなのだろう。

 

部屋に入りベッドに横たわる。

 

課長の禿げ頭が目に浮かぶ。

 

「私を追い出せて清々しているだろうな、あの課長」

 

異動と聞いて不安を感じる方も多いと思うが、私の場合、ワクワクしてしまう方だ。

 

生来ありのままの自分でいることに躊躇いがない。

 

「さてと、続きを読むか」

 

趣味に没頭していれば、時間が経つのも忘れ

 

「フガー」

 

1日が過ぎてゆく。

   

 

 忘れえぬ出会い

 

 異動当日。

 

「総務課から異動してきた正さんです」

 

「正ともうします。よろしくお願いします」

 

今度の課長はコロッとはしているがそれなりの色男である。

 

さぞかし奥さんが気がもめるだろうなどと想像したら、危うく吹き出しそうになった。

 

それから後輩が課の仕事の説明をしてくださり午前中が過ぎた。

 

新しい職場は忙しさにかけては社内で一、二を争うと噂される、いわくつきの課だ。

 

午前中の説明だけでも、ただでさえ隙間の少ない私の脳みそには、とても詰め込み切れないボリュームだった。

 

午後、仕事を始めて間もなくだった。

 

あの忘れえぬ瞬間。

 

「ん?」

 

「あれは・・・」

 

ふと目を向けるとルックスは申し分ないが、ファッションの趣味が地味な感じのする女の子がせっせと働いていた。

 

「きれいな子だな。でもこの印象は・・・」

 

「不思議な気持ちにさせるひとだ」

 

彼女の笑顔が弾ける。

 

 

 

その日も終了。

 

帰宅して今はベッドの上。

 

公一は虚空をしばらく見つめている。

 

「あの子・・・どこかで会ったかな?」

 

 

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かすかに感じる脈

  

 翌日名簿が配られ、彼女は”阿門(あもん)愛“という名前であることが分かった。

 

「フーン、変わった苗字だなあ」

 

だがそれどころではない。

 

仕事を覚えなければ。

 

いよいよ実務を教えていただくことになった。

 

「私と組よ、仕事教えてあげるわね」

 

ペアは仁志(にし)さんとおっしゃる方。

 

「ここはこういうふうにやるのよ」

 

六十を超えた感じの切符のよさそうな女性である。

 

言うことがマトをついているし、マナーにも厳しい人のようだ。

 

公一が机の引き出しを無造作にしめると、

 

「不謹慎よ」

 

と厳しくも優しく言ってくださり、彼はアドバイスを有難く受け止めた。

 

そんな二人は気が合い、手元をテキパキと進めながらも、おしゃべりして笑い合う間柄となった。

 

しかし生来の悪い癖で、公一は声のボリュームをコントロールするのが苦手だった。

 

話の内容は周囲に筒抜けだったろう。

 

そのおしゃべりに耳を傾け、チラチラと公一に目をやる愛の姿があったのを、公一はまだ気がついていない。

 

 

1か月が過ぎたある日。

 

いつもの調子で仁志さんと仕事の手を緩めず、おしゃべりしていたときだった。

 

公一が冗談交じりに

 

「仁志さんて、いちいち言うことが正しいひとだね、ハハ・・・」

 

と笑って目を上げたそのとき、

 

視線の先にこちらを見つめる愛の姿があった。

 

すぐハッとして目を逸らしたが、一瞬、彼女がクスっと笑ったような気がした。

 

その日は夢中のうちに過ぎ去り、帰途についた。

 

公一はベッドに横たわって天井を見上げる。

 

彼の脳裏に出会いの時の印象が蘇っていた。

 

懐かしさともいえるあの印象、あれは何だったのだろう。

 

まるでスライド写真のように、彼女の姿が繰り返し目に浮かぶ。

 

「フフ」

 

「どうかしてるな。」

 

その夜はなかなか寝付くことができなかった。

  

とまどい

 

 翌日、公一はコピーに並んでいた。

 

「ふぁ~あ」

 

あくびをしつつ後ろを振り返ったとき、次の瞬間目を疑った。

 

「えっ?」

 

愛がすぐ後ろに並んでいたのだ。

 

すぐ前に向き直したが、公一は動揺を隠せない。

 

「まさか・・・偶然だよね・・・」

 

 その日の午後、立ち仕事を仰せつかって汗を流したあと、席に落ち着いた。

 

「ふーっ」

 

ほっと息をつき、彼女の方に自然に目が向いたときだった。

 

こっちを見ている。

 

二人は見つめ合ったまま、1分も静止していただろうか。

 

ふと我に返り互いに目を逸らしたが、胸の鼓動は止まらない。

 

しかし不思議なことに、その鼓動はしばらくするとなりを潜め、例えようのない静かな気持ちが余韻として残った。

 

「ときめきは一瞬だった。彼女といると心が落ち着くのだろうか」

 

 

 

公一は書類を見つめている。

 

「これはコピーに残っていた彼女の原稿」

 

「これを使って話しかけてみるか」

 

公一は暫く考え込んでいたが、やがて意を決したように

 

「良し!」

 

ツカツカと彼女に歩み寄る。

 

愛のとなりに立つ、彼女はハッとしてみあげる。

 

「コピーに残ってましたが、あなたの書類ではないですか?」

 

 

 

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無謀 

 

 「えっ?」

 

周りが一斉に振り向いた。

 

“ザワッ”

 

緊張した面持ちで愛を見つめる公一。

 

突然のことに戸惑った表情を見せる愛。

 

「え・・あ・・」

  

やがて愛の表情が緩んだ。

 

「ありがとうございます。でも不要な書類なので」

 

公一も表情をほころばせ

 

「失礼しました」

 

周囲が怪訝そうな表情を見せる。

 

公一は何もなかったかのように自席に戻る。

 

するとしばらくして、明るい笑い声が執務室中に響き渡った。

 

「ウフフフ!」

 

振り向くと明るい表情を浮かべる彼女の姿がそこにあった。

 

「マジ・・・?」

 

「それって・・・」

 

 

 

「これで三日目か」

 

その日、食事をしながら公一は愛の後ろ姿を見ていた。

 

それは愛が三日連続で、自席で昼食を摂っていたから。

 

少し前までは、友達と食堂で摂っていたようなのに。

 

彼女のささやかな気持ちの表れなのだろうか。

 

しかし、表情をほころばせる公一の周囲に、俄かに騒然たる空気が立ち込めつつあることに彼はまだ気づいていない。 

 

「あの二人怪しいんじゃない?」

 

白い視線が公一に集まり始めていた。

 

 

 

ベッドでくつろぎながら彼はさらなる作戦を考えていた。

 

「やはりこれしかないか」

 

あれこれ検討を重ねた結果、ある作戦が閃いた。

 

名簿のナンバーにショートメールしてみようか、という作戦だった。

 

「ルール違反では・・・?」

 

心の声が彼の気持ちを咎めたが、元来、細かいしきたりに縛られることを最も嫌う性質である。

 

衝動を抑えることができない、今の公一であった。

 

携帯を手にし、指がデジタル文字を刻み始めた。

 

“お話したいです、ご返信ください”

 

彼は早速作戦を実行してしまった。

 

決断すると後は迷わない性分ではあったが、この行為は後から冷静に考えるとやはり無謀としか言いようがなかった。 

 

 

 

翌日、公一は仕事を終えバス待ちでロビーに待機していた。

 

すると、目のまえをツカツカと正面玄関へ向かっていく人影があった。

 

目を凝らして見ると、その後ろ姿は紛れもない愛のものだった。

 

いつも帰りが遅いはずの彼女がどうして?

 

そのそぶりはプリプリ怒っているような、落ち着かない様子であった。

 

「もしかして怒らせてしまったかな?」

 

何か重いものが胸につかえ、首から上がカーッと熱くなった。

 

しかし既に賽は投げられたのだ。

 

後悔しても手遅れであった。


   

上司に発覚

 

 翌日、何食わぬ顔をして振る舞い、廊下を歩いていたときだった。

 

「正さん」

 

突然、彼を呼び止める声があった。

 

振り向くとそこには、立ちすくんで厳しい目つきでこちらを見つめる、愛の上司、島田の姿があった。

 

島田は割腹の良い、それでいてゴシップの好きそうな人物で、いかにもキャリアウーマンといった感じの女性だった。

 

「正さん、なにかしたでしょ」

 

「は?」

 

「しらばっくれても無駄よ。ルール違反であることはわかっているわよね」

 

公一は言葉を失った。

 

「もう一度やったら話が大きくなるわよ。覚悟しておきなさい」

 

席に戻った公一は、頭が熱くなって意識が朦朧としてきた。

 

「これが彼女の真実の意思なのだろうか」

 

絶望とともに自らを恥じ入る感情が込み上げてきて、頭の中は混乱の渦となった。

 

そもそも親子ほど年齢が離れた女性が、オッサンに興味を示すわけがないではないか。

 

「なんて馬鹿なことをしてしまったんだ」

 

しかし性格上、思い悩んだとき何か打開策を探るのも、自分らしさであることは承知していた。

 

「やらずにはいられなかった」

 

「でも・・・」

 

自問自答がループし感情の沸騰はピークに達して、その夜は気が付くと窓から光が射していた。 

 

 

それからの数日、公一は何かが思い浮かぶたびに後悔の感情が湧いてきて、仕事が手につかなかった。

 

その様子は傍から見ても、人の注意が耳に入らず自動的に動いている印象だったに違いない。

  

孤立

 

全くの無気力と葛藤するなか、たまたま同僚の女性と仕事の話をしていたときだった。

 

少し長くなったとは感じていたが、我に返ると背後に人の気配を感じる。

 

何も人の真後ろに陣取らなくても…と思いつつ振り向いた。

 

「えっ?」

 

言葉を失った。

 

「愛さん・・・?」

 

中合わせで立っているのは確かに彼女だった。

 

「マジ?」

 

公一は心が沈んでいたため俄かには信じられなかったが、

 

「正さん、どうかしたの?」

 

という同僚の女性の声で再び我に返った。

 

「え・・あ・・ご、ごめん」

 

仕事の話に戻ろうとするが集中できない。

 

抑えようとしても顔がほころんできて

 

「ちょっと正さん、まじめにやってんの?」

 

言われてしまう始末だった。

 

席に落ち着いて一息つくと、嬉しさと彼女を可愛らしく思う気持ちが湧き出でる泉のように込み上げてくる。

 

現金なもので、公一の気持ちは強い風が雲を吹き飛ばしたかのように晴れ渡っていた。

 

しかし当の愛は大まじめで、

 

「冗談じゃないわ」

 

という気持ちだったかもしれない。

 

この後、彼女の嫉妬と思われる態度にはさんざん悩まされることになるのである。

 

しかしこの様子を窺っていた周囲の白い目は、ヒソヒソと何事か囁き合っている。

 

「許せない。」

 

「どうするか、見てなさい」

 

公一は彼自身無意識のうちに、職場での孤立を深めていたのだった。


   

あいつぐ嫌がらせ

 

 翌日のことだった。

 

「正さん」

 

振り向くと後輩が立っている。

 

「この仕事お願いしますよ」

 

冷たい目で見つめ返してくる。

 

「承知しました」

 

公一は、少しは礼儀正しくしてほしいものだな、思いつつも渋々仕事にとりかかった。

 

「これでいいですか?」

 

後輩は“フン”という顔をして書類を見る。

 

「ここ違うじゃないですか」

 

「そこは言われたとおりやったつもりですが」

 

「そんなことを言ったつもりはありませんよ」

 

譲りませんよという顔をしている。

 

「分かりました。やり直します」

 

「時間がないんだから早くしてくださいよ」

 

こいつめ!!という思いが込み上げてきた。

 

しかし自分に冷静を言い聞かせ、やり直して持っていくことにした。

 

すると

 

「ここも違うじゃないですか」

 

「!」

 

公一は衝撃を隠せなかった。

 

後輩は薄笑いを浮かべた冷たい目つきでコチラを見ている。

 

言い返しても無駄らしい。

 

どうやら徹底的にいじめるつもりでいるようだ。

 

 

 

またある日のこと。

 

公一は電話を受け、愛の上司島田に取次にいった。

 

すると

 

「今忙しいんで、あなたの判断で適当に答えておいてくださいな」

 

と返された。

 

一瞬まただと思ったが、キッと思い直し

 

「分かりました。おっしゃるとおりに伝えます」

 

と切り返す。

 

「なっ!」

 

島田は一瞬眉を吊り上げたが、そう返されて二の句がなく、渋々といった感じで

 

「分かりましたよ。つ・・繋いでください」

 

はらわたが煮えくり返っているような言い様であった。

 

 

 

公一は帰宅の道すがら、バスの中で物思いに沈んだ。

 

「これは嫌がらせだ」

 

「どうしたものか・・・?」

 

しばらく考えた彼は、

 

「もう私の心は決まっている。だから負けるわけにはいかない」

 

 やがて意を決したように

 

「明日以降も隙をみせず、余計なことを喋らないで淡々と仕事をするしかない」

 

それしかできることはないと自らに言い聞かせる公一であった。

 

 

 

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抑えきれない嫉妬

 

 愛が若い男性職員と話し出した。

 

すぐ終わるだろうと思っていたら、一向に終わる気配がない。

  

あまりの長さに、公一はどうしようもなく嫉妬の感情に駆られた。

 

「ここで大人げない態度を見せれば、いじめる側の思うツボだ」

 

「でもこの気持ちをどうしたらいいんだ?」

 

なおもしつこく話している。

 

男の方から話を繋いでいるようだ。

 

彼女は顔では笑っていたが、表情には少し困った感じが見て取れた。

 

「ここは我慢だ」

 

「縁がないものなら、どうしようもないではないか」

 

彼はそう自問自答して、湧き上がる身を焦がすような嫉妬の感情に耐えるしかなかった。

 

ひと時の安らぎ

 

雨が少なく寒い日と小春日和が交互にやってくる、そんな秋の深まるある日、公一は旅に出た。

 

車で伊豆までのドライブを兼ねた一人旅であった。

 

道中、運転に集中するだけで、少し気が紛れたが心はまだ重たかった。

 

瞬間的に、どうしても愛のすがたが脳裏に浮かぶ

 

“キーッ“

 

人はいなかったが、危うく赤信号を素通りしそうになった。

 

しかし海辺に出て透き通る水平線を見渡したとき、曇る気持ちが少しづつ晴れていくのを感じた。

 

宿はちょっと古びた感じの旅館であった。

 

女将や仲居さんたちの温かい歓待をうけ、部屋に落ち着いた。

 

そして彼は窓から見える景色に目を向けた。

 

はるか水平線の景色が途切れようとする辺りに、一隻の漁船らしき舟が白波の航跡を残しつつ沖へ向かっている。

 

「旅はいいな」

 

せっかく旅に出かけたのだから、今日ばかりは職場でのしがらみを忘れたかった

 

風を切り、移り行く景色を眺めているだけで五感が刺激され、少しずつ心の晴れ間が広がっていくのを感じる。

 

それから湯に浸かって、美味しい海の幸をほおばり、夜は一人カラオケに興じた。

 

日頃のウサを晴らすべく、個室に大声の限りを響かせた。

 

そして就寝前にはマッサージ師に来てもらった。

 

「いててーー!」

 

マッサージ師に容赦なくツボを押しまくられたが、とにかく五感を刺激することによって雑念を忘れることができた。

 

すると心地よい眠気が訪れ、現実に思いを寄せるいとまもなく、公一はいつの間にか眠りについていた。

   

 

異動への高まる期待

 

そして季節は春、異動の節目の時期が近づいてきた。

 

公一は二人の関係に進展があるとしたら、どちらかが異動するしかないと考えていた。

 

期待と不安が高まり、内示の日を迎えた。

 

気が散って仕事に十分集中することができない中、そのときを待つ。

 

その日の夕方。

 

いよいよ結果判明の時間が迫るにつれ、心臓の鼓動は嫌が上にも高鳴る。

 

しかし、1時間、2時間が経過しても一向に報らせはない。

 

生来、気の短い公一は

 

「心臓が持たないよ」

 

「キリがないな、異動の時はいつもこうだから」

 

と結論付け、結果を待たずに帰途に就く準備を始めた、そのときである。

 

ついに待ちに待った一報が届いた。

 

課長の発表に周囲が一斉に注目する。

 

一人一人の名前が読み上げられる。

 

そして・・・。

 

「以上」

 

「は?」

 

空振りであった。

 

「そんな・・でも・・」

 

「そう簡単に異動できるわけないか」

 

期待が高かっただけに、落胆も半端なかったが、そもそも空回りがつきものの異動というイベントである。

 

諦めようと自分に言い聞かせつつ、ちらっと愛の方に目をやった。

 

「え?」

 

なんだか様子がおかしい。

 

表情に影が射し、明らかに落ち込んだ様子がうかがえたのだ。

 

その様子を見て公一は居ても立ってもいられなくなってしまった

 

反射的に落ち込んだ彼女を励ましたい衝動に駆られたのだ。

 

暫く知恵をしぼって、公一の出した答えは

 

「元気を出してください」

 

と記した紙片を、彼女の机の上に置いてみようかというものだった。

 

これを実行すれば、彼の隙を窺っている人たちに、絶好の口実を与えることになることは承知のうえであった。

 

普段は冷静な公一であったが、愛を思う気持ちが彼の判断力を狂わせる。

 

自らの衝動をどうすることもできない彼であった。

 

 

 

ウフフフ

 

沈んでいた彼女の表情が満面の笑みへと変わり、弾けた

 

「良かった・・・」

 

公一はほっと胸をなでおろした。

 

しかし、この明白な隙を周囲の白い目が放っておくはずもなかった。

 

待ってましたとばかりにバッシングの嵐が始まるのだった。

 

 

 

弾劾、そして絶望

 

翌日、

 

「正さん」

 

課長のお声がかかった。

 

「はい、なんでしょう」

 

「打ち合わせコーナーにきてくれたまえ」

 

「はあ」

 

行ってみると、そこには課長と島田係長が座っていた。

 

「正さん、あなた昨日なにかしたね?」

 

「は?」

 

「胸に手を当ててみたまえ」

 

「そ・・それは」

 

「年甲斐もないことをやってくれたね」

 

「・・・」

 

公一は内心「おいでなすったか」と腹をくくった。

 

それから延々といじられたが、公一は覚悟していたことであり、時間がたつにつれて次第に冷静さを取り戻した。

 

心を決めた彼は深く息をつき、

 

「わかりました。しかしやってしまったことは仕方ないので、どうぞご存分にご処分ください!!」

 

とぶちまけた。

 

上司二人はあっけにとられている。

 

「仕事にもどっていいですね!失礼いたします!!」

 

そしてその場は、許しをうけることもなく、さっさと席に引き上げた。

 

さらに翌日、

 

「正さん、部長がお呼びだ」

 

課長のお呼びがかかった。

 

覚悟していたこととはいえ、一瞬緊張が走る。

 

会議室にはいると

 

「かけたまえ」

 

「用件はわかっているね」

 

「はい」

 

部長のお説教を淡々と聞き流し、返事のみをし終えた公一は、

 

「なんか処分をくらうかな、やはり気の迷いだったか」

 

「でもやることはやった、悔いはない」

 

胸にはジリジリと焦げ付いたような思いがくすぶる一方、心のどこかに清々としている自分がいるのも確かだった。

 

とはいっても、愛のことが心によぎるたびに、かき消そうと必死にもがく時間がしばらく続いた。

 

公一は彼女に振り回されるのはもうたくさんだと思った。

 

これからは身の回りをウロチョロされようが、何をされようが無視しようと思いを固めるのだった。

 

 

 

そんなある日のこと、トイレに立った公一は、通路の途中の閉め切りの防火扉のところにさしかかった。

 

すると背後に人の気配を感じたため、何気に防火扉を開けた手をそのままにした。

 

さらに気配が近づいてきたので、立ち去ろうとすると、嬉しさに満ち溢れた悲鳴のような女性の声が響き渡った。

 

彼は

 

「余計な気遣いだったかな」

 

と思ったが、その場は大して気にも留めなかった。

 

その日の午後、ある電話を受けた。

 

それは愛の島の別の女性への電話だった。

 

その女性のもとへいき話し始めると、ツカツカと人が迫ってくる気配がする。

 

ドン”と席に腰掛けた。

 

愛だった。

 

公一は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 

しかし後になって冷静に考えてみると、いつもの嫉妬ゆえの行動としか思えない。

 

その激しい態度にもう忘れようと決めていた気持ちが揺らぐ。

 

ダメであった。

 

やはり忘れることができない。

 

それどころか余計可愛いらしくさえ思えてくる。

 

「かなり怒らせてしまったようだ。何かこちらも態度でしめさなければ」

 

あれこれ思案した挙句、他の女性に伝言するときには、しばらく常にメモを使おうと決めた。

 

 

 

そして秋も深まったある日、また事件が起きた。

 

仕事が終わって帰る支度をしていたとき、愛の島の島田係長からある発表があるという。

 

いわく

 

「我が島の亜門愛さんが入籍することになりました」

 

とニヤニヤした顔で言い放った。

 

その後、愛がそそくさと前にでて

 

この度入籍することになりました

 

一瞬目の前が暗くなった。

 

「えっ?」

 

動転したまま帰途につき、気がついたらベッドのうえだった。

 

 

 

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虫の知らせ

 

心は闇に覆いつくされていた。

 

「なんか雰囲気は怪しいけど、やっぱりそうなんだな」

 

仕事を続ける気力も消え失せるような、どん底に突き落とされた気分だった。

 

眠ることはできず、公一の精神は限界を彷徨っていた。

 

「ああ、私はどうしたら良いんだろう。とても仕事を続けられそうもない」

 

つらい時間を時計の音が刻む。

 

すると

 

“パン”

 

という音がした。

 

「なんだ?」

 

“・・・シーン”

 

辺りを見回したが何事もない。

 

「ペットボトルが弾けたのかな?脅かすなあ」

 

またしばらく時が経つ。

 

「愛のことを忘れたい。でもいつ忘れられるんだろう」

 

“プチッ”

 

今度は家の木材の気泡が弾けるような音がした。

 

「えっまた?」

 

“・・・シーン”

 

「脅かすなよ、疲れてるのに・・・はあ」

 

パン

 

「え」

 

プチッ

 

「なんなんだ?一体」

 

しばらく静寂が部屋を包み、落ち着きを取り戻した公一は、

 

「虫の知らせだったのかな、だとしたらどういう意味なんだろう」

 

と首をかしげた。

 

このときを境に、不思議な気持ちとともに心地よい眠りの誘ないがおとずれ、公一は眠りにつくことができた。

 

 

 

希望 

 

翌日、公一は頭が重く仕事を休むことにした。

 

でも虫の知らせ以降、少し気持ちが軽くなっているのを感じた。

 

「忘れようとしたら虫の知らせがきた」

 

「もしかして忘れなくて良いという知らせかな」

 

さらに少しずつ心が軽くなる。

 

「この調子なら無理すれば明日仕事に出られるかな」

 

「・・・でも待てよ」

 

しばらく考え、ここは

 

「もう二日休むことで職場にアピールし、金曜日の午後から出るのが得策ではないか」

 

そう判断した彼は、二日のんびり休むことにした。

 

心労が度重なり疲れ切っていた彼は、かなりリフレッシュすることができた。

 

 

 

さらに金曜日の午前中を休み、午後から出社した。

 

職場に着くと、そこには信じられない光景が待っていた。

 

彼がかねてから苛めの中心人物と目していた数人が皆休んでいたのだ。

 

しかも愛が席に座っているではないか。

 

彼はついでがあるフリをして、彼女の近くに向かい周りを歩いた。

 

そして表情を横目でちらりと見た。

 

ニコニコしながらディスプレイを見つめている。

 

彼も思わず微笑んだ。

 

 

 

立ち仕事をしていると、仕事を教えてくれた仁志さんが話しかけてきた。

 

「 見たでしょう?」

 

「えっ?何を?」

 

「私も出てくるのが嫌になっちゃうわ」

 

そうなんだ。

 

話しの筋書きが読めたような気がした。

 

怒りが湧いてくるわけでもなく、ただ愛がいつも通りそこにいるというだけで安心感に包まれた。

 

 

 

それからしばらくたったある日。

 

愛が公一のすぐそば、彼の上司志摩のところにやってきた。

 

公一は一瞬目を疑った。

 

彼女との出会い以来、初めてとなるシーンだったからである。

 

「えっ!?」

 

「いったい、何が始まるのかな?」

 

興味津々に様子をうかがっていると、目の前で二人は何やら話し始めた。

 

そのうち次第に笑顔が弾け、ジャレ合いだした。

 

すると今度は公一の前の席の女の子と話だし、公一の視線に気づいているだろうに、あえて目を逸らすかのように知らぬふりをいている。

 

さらに見つめ続けると、前に見つめあったときに彼がそうしたように、笑いながら「フーンだ」という表情をして横を向いた。

 

このとき公一は、彼女を今までで一番身近に感じていた。

 

嬉しかった。

 

今までの闇は晴れ、はるかかなたの地平線を見渡すように、視界が開けていくのを感じた。

 

   

和解

 

公一は仕事が一区切りついてしまった。

 

同じ係の人たちに御用伺いしたが今はないと言われたので、愛と同じ係りの仁志さんに

 

「なにか、やることがあればやるよ」

 

と話しかけてみた。

 

「山ほどあるわよ。でも係り違うし・・。やってくれるの?」

 

「いいですよ。お手伝いしましょうか?」

 

それから彼の係の枠を超えたお手伝いが始まった。

 

上司から何か文句を言われるかと思ったが、とりあえず静観しているようであった。

 

彼は資料を五十音順に並べ替える仕事を請け負った。

 

しばらく続けた後、

 

「 仁志さん、俺って性格が雑ぱくで細部に甘いところがあるから、アカサタナにだけ分けるからあとやってね」

 

「 ダメよ、曖昧な人はちゃんと機械で調べるのよ」

 

「 ええ〜、厳しいよ」

 

このやり取りの後、辺りが騒然とした。

 

愛が上司とジャレ合って喜んでいる。

 

 

 

このときを境に何かが変わった。

 

公一が指を怪我した男性を気遣い

 

「 指大丈夫ですか?」

 

と尋ねると

 

「 大丈夫です。ありがとうございます」

 

と笑顔が帰ってきた。

 

またある時は、今まで話したことのない青年が

 

「正さんて昼休み音楽聴かれてますけど、何聴いてらっしゃるんですか」

 

とやはり笑顔で気さくに話しかけてくれた。

 

今までの白い目が影を潜め、職場が明るい雰囲気に包まれたのだった。

 

愛とのことも周りから祝福されたらどんなに良いか。

 

彼女とのこれからの成り行きはどうなっていくのだろう。

 

その日は明るい気持ちと、一抹の期待を胸に温めて、公一は帰途についたのだった。

 

 

 

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